たーぼの山日記

YouTubeやってます。「たーぼの山日記」山好な管理人が野宿に、渓流釣りに、たまに狩猟に行った記録です。

山小屋生活。7月編

1人になれる場所が欲しい。

もしそれが森の中に建つ古い小屋だったら、都会に帰る理由はもはや無いだろう。

しばらく前、亡き父が遺した登り窯を解体してその小屋を生活出来る様に手を加えようと思いついた。

私が生まれて、幼少期から思春期まで過ごした故郷に建つこの古びた小屋。

このまま朽ちる姿を見るのが忍びない。

やっと思い立ち、まとまった休みをとるとこの窯の解体に着手した。

その時の事は以前の記事に書いた通りである。

https://takamattsu.hatenablog.com/entry/2020/05/06/134723

 

今回はその小屋に滞在した数日間の事を書こうと思う。

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約2カ月ぶりに訪ねた小屋は変わらずにその古びた姿で迎えてくれた。

あたりはすっかり伸びた緑の草や蔓に覆われ、一層忘れ去られた小屋の雰囲気を増している。

ここを知らない人ならば恐怖心すら抱く佇まいだ。

ギイっと鳴く手作りのドアを開けると、材木と土の匂いがする。私の小屋だ。

まずは掃除から始める。

柱にはいくつも私が留守の間の主となった蜘蛛の巣が作られていたし、小上がりにはここで最後を迎えた虫達が散らばっている。

窓を開け。くたびれた箒でそれらをきれいにする。

部屋の中を見渡す。

やっぱり私の小屋だ。

今夜から過ごすここでの日々が早くも楽しみだ。

荷物を片付け、ロフトに寝床の支度をする。

コットと寝袋の簡単な物だが、寝心地は非常に良い。

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今回、ここへ来たのにはいくつか目的があった。

・小上がりにカウンターを作ること

・冷蔵庫を設置すること

・玄関に屋根付きのポーチを作ること

・この小屋で薪を割り、暮らし、たくさん飲むこと

 

上の2つは簡単だろう。

冷蔵庫のあてはあるし、カウンターに使う一枚板は汚れてはいるものの磨けば使えそうな材木の見当がついている。

玄関のポーチはどうだろう、父がせっせと溜め込んだ廃材は小屋を作った時にほとんど使い果たした。

柱に使う木となるとそれなりに値が張る物を4本は用意しないといけない。

そして何より4つ目だ。ここでの暮らしとはどんなだろうか。

考えていると、ランタンのロウソクの揺らぎに誘われてあっという間に眠りに落ちた。

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ここの滞在中は、しばらく雨が続いた。

それでも雨露に濡れた森を歩くのは楽しいし、植物達の観察もまた然りだ。

全く無駄の無い造形、それぞれが調和しながらも個性に溢れるそれらは濡れた土の匂いをさらに良い物にしてくれる。

まずは犬の寝床を作ることにした。

私の犬はなんだかこの小屋が気に入らない様で落ち着きがなくいる。

簡単なマットと古いタオルを敷き、それはすぐに完成した。頼りのない相棒はすぐにそこを気に入ってくれたが一息つく事は出来ない。

やる事は他にいくらでもあるのだ。

その後数日間は溜まっていた薪割りやらに費やさなければならなかった。

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しばらく水滴だらけのぬるくなった発泡酒をすする日が続き、いよいよ冷蔵庫を運び入れようと思った。

小さくて古いが、冷凍室も付いたスグレモノだ。

冷たいビールを妄想しながら窓を眺めると、この窓から覗く森を眺めながら飲みたいと思った。

それならばカウンターが要る。ここで冷えたビールを飲むには、何よりもカウンターが要るのだ。

カウンターにしようと目をつけていた木材は思ったより重く、ボロボロだった。

触るのさえ躊躇したし、実際持っても運べないほどに重かった。

それをサンダーで磨きあげていく。

サンダーの活躍でそれは虫の食ったボロの材木からみるみるカウンターになっていった。

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冷蔵庫も入り、これで言うことはない。

ここにあぐらをかき、まだ明るいうちから飲んだ。森を、川を見て飲んだ。

 

残るはポーチをどうするかだ。

 

夕暮れの森は、考え事をするにはきっと最適な場所だ。ただの思いつきでも、それがやり遂げる事が出来る物に思えてるからだ。

周りを見渡す、あれも、あの木もなかなか真っ直ぐでサイズが良い。

あれは途中の3mほどは真っ直ぐな部分がある。。。。

どうしてこんな簡単な事を思いつかなかったのだろう。

材料は森の中にいくらでもあるではないか。

早速明日から材料を切り出そう。

 

次の日も雨。

切り出す予定の木が生える場所は谷間になっていて足元に注意が必要だ。

切り出した木はさほど太くは無いが水をいっぱいに吸っていて驚くほどに重い。

欲を出して切り出した1番太い丸太は斜面から運び上げる事さえ不可能に思えた。

しかし、せっかく切らせてもらったこの木を無駄にする事は出来ない。

森の中の作業には冷静な計画が必要だ。

もしそれが無いのならば行き当たりばったりを押し通す根性が必要になる。

ありったけの根性を振り絞り、体をいじめ抜いて材木を運んだ。

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柱を乗せる土台や、梁、屋根板などは余っている廃材を使う事にした。

買ったものは柱を留めるボルトくらいだった。

柱の根本の水平にだけ気をつけると作業はかなりスムーズに行った。

3日ほどで作業が終わり、満足のいくポーチが出来た。

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これ以上何を望むだろう。

ここがあれば雨の日でも作業をしたり、焚き火を楽しむ事が出来る。

ここの作業風景は動画に撮ってみた。

もし興味があれば見ていただきたい。

https://m.youtube.com/watch?v=XJMiaIba56s

 

さっそく火を熾す。

 

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暗くなってもいつまでも眺めていられる。

古ぼけた木の椅子を置くとこの場所がすっかり気に入った。

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ここへ滞在出来る期間の残りはどんどん少なくなってくるが、やらないといけない事はまたまた山積みのままだ。

ストーブの煙突。

小屋を作った時はかなりの突貫だったので取り付けがかなり甘くガタガタになっている。

秋の前にしっかり直しておく必要がある。

使う時に慌てない様に。

 

とりあえず直った様なので試しに火を入れる。

煙が勢いよく上り、私を安心させる。

熱を利用して柱の端材で作ったコースターを乾かす。

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次来るまでには乾いたコースターになっているはずだ。

 

森の中の生活はとてもシンプルだ。

労働の後の冷えたビールはありがたい。

川の音を聞きながら揺れるランタンの灯りに微睡む夜、鳥達の声に起こされる朝。

窓を開けると部屋に吹き込んで来る朝の森の空気。

コーヒーを入れると部屋を満たす香り。

一つ一つの行いに意味と喜びがある。

 

今、小屋から離れた場所でこの文を書いている。

あの小屋はどうしているだろう。

雨にうたれているだろうか、もしそうなら小さな客人達が雨宿りに来ているかもしれない。

街の雨を見ながら、はるか北に建つ彼の小屋を思った。